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渇水の58年に流れ変えたのは雨

58年10月11日、日本シリーズ第1戦 西鉄対巨人 58年度セ・リーグMVP受賞の巨人藤田元司(左)とセ・リーグ新人賞受賞の長嶋茂雄は笑顔で写真に納まる
◇3連敗後順延

 巨人に王手をかけられた。追い詰められた西鉄ナインにあきらめの気持ちが出ていた。

 「3連敗して、さすがにみんな落ち込んだ感じだったな。3戦目の試合後、平和台のロッカー室でだれとなく『今年は負けやぞ。もうしょうがないな』なんて話していた。おれも2敗したし、3戦目はいいピッチングしたけど、完封負け。そういう試合内容だっただけに今年は負けたなあ、という感じになっていた」。

 楽天的なチームとはいえ、さすがに巨人に3連敗を喫し、もう後がない状況に追い込まれてしまったら悲壮感が支配するのも無理はない。だが、その時ロッカー室に別の声が響いた。

◇「せめて1勝」

 「おい、ここでシリーズに負けたら、球場から出られなくなるぞ」-。

 稲尾はチームメートの声にドキリとした。ロッカー室がある2階の窓からふと外を眺めてみると、大勢の西鉄ファンが目に入った。

 「そんな話をした途端に、なんか外のヤジが余計に大きく聞こえてきたな。そうだ、これはヤバイことになると思った。それからみんなでとにかく1勝しようと。パ・リーグを代表して日本シリーズに出ているんだし、このまま4連敗だったら他の5球団に申し訳ない。せめて1勝しようという話になった」。

 雨が降った。10月14日、エース稲尾で星を落とし、土壇場に追い詰められたその夜…。雨は朝方まで降り続いた。15日に予定されていた第4戦は雨天順延となった。中止決定の早さに巨人サイドからクレームがついたが、西鉄には文字通り恵みの雨だった。この年、梅雨らしき梅雨がなかった福岡だったが、この秋雨がすべてを洗い流してくれた…。

◇巨人長嶋対策

 中止の日、稲尾は唐人町の寮の自室で今後の対策を練った。肉体的な疲労は残っているが、スーパールーキー長嶋を4番に据えた新巨人打線の攻略に思いを巡らせた。

 「次の登板がどうなるかは分からなかったけど、長嶋さんを抑えれば何とかなるんじゃないかと思った。中心打者だし、とにかくあの長嶋さんさえ抑えれば勝機は見いだせるんじゃないかと思った。1日雨で流れたし、考える時間はあった。寮の部屋でそればかり考えていた」。

 そしてもう1つ。稲尾は大きなものを見つけ出した。父久作の写真を入れたペンダントである。お盆すぎから首に下げていたペンダントだったが、ペナント優勝後に外すと、見当たらなくなっていた。シリーズ前に何度か捜してみたが、どうしても見つけられなかった。だがこの日、ひょっこりノートの間に挟まっていたのを発見した。

 「(ペンダントは)あーどこかで無くしたんだなあ、と思っていたんだけど、ポロッと出てきた。シリーズ前にはまた身に着けて投げようと思って結構、捜したんだけど見つからなかったんで、しょうがないやと思っていたんだけどな」。

 仕切り直しとなった10月16日の第4戦。稲尾は平和台の先発マウンドに立った。アンダーシャツの下にはペンダントが光っていた。【佐竹英治】

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